【第1回】「給与の不満」は建前である〜若手社員が静かに退職を決意する本当の理由〜

産業医×中小企業診断士 ショート対談
診断士:「産業医先生、先日クライアントのD社で、次代のエースと期待されていた入社3年目の若手社員が突然退職願を出してきました。社長は『今年初任給もベースアップも満額回答したのに、金のことしか考えていないのか』と憤慨しているのですが……」
産業医:「退職理由の面談では、本人は何と言っていましたか?」
診断士:「『他社から好待遇でスカウトされた』『実家の事情』と角の立たない理由を話していましたが、退職手続きの表情は完全に冷え切っていましたね」
産業医:「やはりそうですか。退職時の『待遇の不満』や『一身上の都合』は、波風を立てずに立ち去るための99%建前です。医学的・心理学的に診ると、若手が組織を去る真の理由は『孤独感』と『過剰適応による自律神経の消耗』ですよ」
診断士:「給与や福利厚生といった“目に見える条件”の不足ではない、と」
産業医:「ええ。ハーズバーグの動機づけ・衛生理論でも明らかなように、給与は不満を一時的に予防する『衛生要因』に過ぎず、仕事への誇りや成長を促す『動機づけ要因』にはなり得ません」
診断士:「なるほど。『給料を払っているんだから文句はないだろう』と放置され、誰にも相談できない暗闇の中で走り続けさせられた結果、脳疲労を起こして心が折れてしまったわけですね」
産業医:「その通りです。真面目で優秀な社員ほど、SOSを出せずに静かに退職を決意します。組織が手遅れになる前に、この『静かな退職・静かな離職』の構造を解剖しましょう!」
診断士×産業医の視点と解説
人手不足に悩む中小企業が陥りがちな最大の錯覚は、「給与を上げれば若手は辞めない」という金銭的インセンティブへの過信です。
産業医の視点(認知的疲弊と孤独感):
現代の若手社員は、理不尽に怒鳴られること以上に「放置されること」「相談する相手がいないこと」に強いストレス(前頭葉の疲労)を感じます。不安を抱えながら誰にも頼れず一人で業務を抱え込む状態は、脳を慢性的な緊張状態に置き、ある日突然エネルギーが尽きる「サイレント・バーンアウト」を引き起こします。
診断士の視点(ハーズバーグ理論と採用コストの浪費):
給与や休日などの「衛生要因」を整えても、「不満」が減るだけで「満足(ここで働き続けたい動機)」は生まれません。一人立ち直前の3年目社員に辞められると、採用費と育成にかかった数百万円の投資が回収不能になります。定着に必要なのは、給与の追加ではなく「仕事の意味づけ」と「日々の承認」です。
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