【第1回】「お客様は神様」の終焉〜カスハラ放置が招く企業の法的責任と離職ドミノ〜産業医×中小企業診断士 ショート対談

産業医:「診断士先生、先ほどカスタマーサポート部門のCさんと面談したのですが、深刻な適応障害を発症していました。ある特定の取引先から連日1時間以上にわたり『土下座しろ』『お前の代わりなどいくらでもいる』と罵声を浴びせ続けられていたそうです」
診断士:「それは酷い……。現場の管理職はその状況を把握していなかったのですか?」
産業医:「把握はしていましたが、『お客様は神様だから穏便に収めろ』『これも仕事のうちだ』と現場に我慢を強いていたようです。その結果、Cさんだけでなく、周囲の若手スタッフ2名も『この会社では安心して働けない』と退職届を出してきました」
診断士:「まさに“離職ドミノ”ですね。悪質な1社のクレームを放置したせいで、貴重な現場スタッフ3人を失うというのは、経営判断として完全に間違っています」
産業医:「医学的・法的な観点からも、これは企業の明白な『安全配慮義務違反(労働契約法第5条)』になり得ます。理不尽な要求や人格否定から従業員の心身を守る措置を講じていなければ、企業側が損害賠償責任を負うリスクがあります」
診断士:「東京都をはじめ各地でカスハラ防止条例の制定が進んでいる今、『お客様だから何を言われても耐える』という昭和の価値観は、もはや経営破綻の引き金でしかありませんね」
産業医:「その通りです。従業員を危険に晒す顧客からは組織として毅然と撤退する。この合意形成を平時から作っておく必要があります」
診断士:「分かりました。現場の尊厳と会社を守るために、カスハラ対応の防衛基準と、顧客ポートフォリオの見直しを急ぎましょう!」
診断士×産業医の視点と解説
悪質な顧客や取引先からの理不尽な言動(カスタマーハラスメント=カスハラ)を放置することは、職場の士気を下げるだけでなく、企業の存続基盤を破壊します。
産業医の視点(安全配慮義務と法的リスク): 理不尽な怒号や長時間の拘束、人格否定は、従業員の脳に急性のトラウマを与えます。企業には「従業員が安全かつ健康に働ける環境を整える義務(安全配慮義務)」があり、カスハラの実態を認識しながら現場に対応を押し付けた場合、労災認定や民事上の巨額賠償に発展する法的リスクがあります。
診断士の視点(離職コストと組織崩壊): 理不尽な客を守るために優秀な社員が辞めていくと、採用費・教育費のサンクコスト(埋没費用)が吹き飛ぶだけでなく、残された社員への負荷が増大して現場が機能停止に陥ります。「客を選ぶ基準」を持たない企業は、自ら組織を衰退させているのと同じです。
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